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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7799号 判決 1967年3月08日

原告 坪川幸弘

右訴訟代理人弁護士 成毛由利

被告 日本クラッド鋼業株式会社

右訴訟代理人弁護士 山田至

同 山野一郎

主文

当庁昭和四一年(手ワ)第一、七九九号小切手金請求小切手訴訟の判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

双方の申立および事実上の主張は、後記のほかは、主文記載の小切手訴訟の判決事実摘示と同一であるからここに引用する。

原告訴訟代理人は請求原因の補足として次のとおり述べた。

本件小切手は、昭和四〇年一一月二九日支払人に呈示されたが支払がなく、同日、支払人によりその日付で小切手に支払拒絶宣言の記載がなされた。

被告訴訟代理人は、原告主張の右事実を認め、弁抗の補足として次のとおり述べた。

被告主張の手形になされた原告の裏書は、先に原告が古川一郎の名義を用いて訴外三井銀行に取立委任裏書をしたが、これを取戻し、その裏書の記載を利用して取立委任文言および被裏書人三井銀行の記載を抹消しないままで新裏書(拒絶証書作成義務免除)とし、これにより手形を訴外新昇工事株式会社に譲渡し、同会社は訴外山口隆に、同人は訴外桑原幹夫に各白地式裏書により譲渡し、訴外桑原は交付により被告に手形を譲渡して被告がその所持人となった。

原告訴訟代理人は、被告主張の新裏書の事実を否認すると述べた<以下省略>

理由

一、請求原因事実は当事者間に争いがなく、右事実によると、原告は本訴請求のとおりの小切手金債権および利息債権を取得したことは明らかである。

二、被告の抗弁について考察するのに、被告主張の手形である乙第一号証によると、被告がその主張の内容の手形を所持していることが認められ、文書の方式と趣旨とにより第三者の作成したもので反証のない本件では真正に成立したものと認められる乙第一号証及びその他各証人の供述並びに前記認定の事実を綜合すると、被告が右手形を取得するに至った経緯は次のとおりであることが認められた。

すなわち、原告は右手形を受取人の昭和物産株式会社から第一裏書により譲渡を受け、訴外三井銀行に取立委任裏書をして同銀行に交付していたが、その後訴外桑原幹夫の斡旋により右手形を他で割引いて貰うことにし、同銀行から取戻して、訴外桑原に割引を依頼し、右手形を同人に交付した。その際原告は、右訴外人が適当な割引先を物色し、その割引先の都合により必要に応じて右裏書の一部または全部を抹消し或は抹消しないで割引先に手形を譲渡すべき権限を同訴外人に与え、その必要に備えて右裏書の要所々々に捨判を押し、裏書を抹消しないままで手形を同訴外人に交付した。同訴外人は右手形を訴外新昇工業株式会社で割引き、これに伴い同会社に手形を譲渡し、その後被告主張の経緯で白地式裏書または白地式裏書後の交付により順次手形が譲渡され、被告が所持人となった。<省略>。

右認定の事実から判断すると、原告は、右手形の既存の取立委任裏書の記載を利用して新たな譲渡裏書をする意思のもとに右手形を訴外新昇工業株式会社に交付したものであり、またその交付に当っては、爾後の手形譲受人に対し取立委任文言および取立被裏書人の記載を抹消すべき権限をも与えたものであると解するのが相当である。

このように既存の取立委任裏書の一部を利用して新たな譲渡裏書とすることは、可能なことではあるが、しかし、既存の取立委任裏書が新たな譲渡裏書に転化するためには、裏書人の譲渡意思に加えて既存の裏書中の少くとも取立委任の文言が抹消されて外形上譲渡裏書としての体裁が整う必要があるものと思われる。このことは手形行為の内容の決定がその外形的観察に基いて行われるべきことの当然の要請であると思われるのである。したがって、たとえ既存の取立委任裏書を利用して新たな譲渡裏書をしようとする譲渡人が取立委任文言の抹消権限を爾後の手形譲受人に附与して手形を交付した場合においても、取立委任文言の記載が実際に抹消されないで存在している以上は、その裏書は譲渡人の意思にかかわらず外形上取立委任裏書として解釈されるほかはないのであり、譲渡裏書としてはいわば未完成なものがあるに過ぎないといわなければならない。

そうだとすると、当事者双方の主張の全体の趣旨により、原告の前記取立委任裏書のうち取立委任文言の記載がまだ抹消されないで残存していることに争いのない本件においては、前記裏書は前記認定の原告の譲渡意思にもかかわらずまだ譲渡裏書に転化していないものというべきであり、したがって、原告の担保責任を生じないというべきである。

よって、被告主張のその余の点を判断するまでもなく、被告の相殺の抗弁は採用できない。

三、以上のとおりで原告の請求は理由があり、認容すべきであるから、これと符合する主文記載の手形訴訟の判決を認可し、<省略>主文のとおり判決する。

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